
使用画像の出典:Canvaで作成(写真素材:Pixabay)
はじめに──たった一言で変わった「未来の見え方」
「私の亡くなったおばあちゃん、ALSだったんだよ」
ある日、妻からそう聞かされたとき、私は正直戸惑いました。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)――テレビやドラマで名前を聞いたことがあっても、実際に自分の人生と関係あるなんて思っていませんでした。
しかし、その瞬間から「もし将来、家族の誰かが…自分が…」という現実的な不安が胸に広がっていきました。
この記事では、ALS家系にルーツを持つ私たちが直面した疑問や不安に対し、自分なりに調べて**実体験と医療知識に基づいた“知っておきたい5つのこと”**としてまとめてみました。
あなたや大切な人の“今”と“未来”を守るためのヒントになれば幸いです。
1. ALSは遺伝する?──家族性ALSの基礎知識
ALSには主に以下の2タイプがあります:
- 孤発性ALS(sporadic ALS):全体の90〜95%
- 家族性ALS(familial ALS / FALS):全体の5〜10%
ALS患者の多くは孤発性ですが、5〜10人に1人は家族性で、特定の遺伝子変異が関係しています。代表的な遺伝子は以下の通りです。
- SOD1:日本でも多数の報告があり、最もよく知られた原因遺伝子。
- C9orf72:欧米で多く、認知症(前頭側頭型認知症)と合併することも。
- FUS / TARDBP:若年発症との関連が指摘されています。
ただし、遺伝子変異を持っていても、必ずしも発症するわけではありません。
発症には遺伝だけでなく「環境要因」や「体質」が複雑に関係しているとされており、家族に患者がいても、何も起こらないケースもあるのです。
2. 遺伝子検査を受ける前に──覚悟と支えが必要な理由
「ALS家系かもしれない」と感じたとき、真っ先に思い浮かぶのが遺伝子検査。
日本国内でも大学病院などで自由診療として検査が受けられ、費用は数万〜十数万円が相場です。
しかし、検査には次のようなリスクや注意点も存在します。
● 人生設計への影響
検査結果が陽性だった場合、結婚・就職・保険加入などに不安を感じるケースがあります。法的な差別は禁止されていても、社会的な偏見が残る可能性はゼロではありません。
● 家族全体の問題になる
検査は「個人の問題」ではなく、「血縁関係にある家族全体の課題」です。陽性の結果は、兄弟・子どもにも影響する可能性があります。
● 心の準備が必要
結果に精神的ショックを受ける人も少なくなく、検査前後には専門の遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。
検査は“受ければ安心”というものではなく、未来への向き合い方を考えるための対話の入り口。
受けるかどうかは、家族で時間をかけて話し合うことが大切です。
3. 発症は防げる?──生活習慣でリスクを減らすという考え方
ALSの発症を完全に防ぐ方法は、現時点では確立されていません。
それでも、「なりにくい体づくり」は日々の生活習慣から始められます。
【リスクを高める可能性がある要因】
- 喫煙習慣
- 農薬や鉛など有害金属への長期曝露
- 長時間の激しい肉体労働歴
- 慢性的なストレスや睡眠不足
【神経を守るとされる生活習慣】
- 抗酸化作用のある食品(緑黄色野菜、ナッツ、青魚など)を日常的に摂取
- 軽度〜中度の有酸素運動を週2〜3回継続
- 質の高い睡眠とストレス管理(リズムのある生活)
ALSは神経細胞の「酸化・炎症・ストレス」により進行するとされます。
それらのダメージを減らすことは、発症リスクを下げる可能性があるという考え方が注目されています。
4. 「備える」ことが、心の余裕を生む
家系にALS患者がいると、将来への不安や恐れが頭をよぎるのは当然です。
- 「もし自分が発症したら…」
- 「子どもに遺伝してしまったら…」
- 「介護で家族に負担をかけたくない…」
でも、不安にフタをせず、夫婦や家族で小さくても“準備の対話”を始めておくことは、将来への安心につながります。
実際、ALS患者の家族からはこんな声が聞かれます:
- 「介護保険や在宅医療制度を早めに調べておいて本当によかった」
- 「家族全員で役割を分担することで、心身の負担が減った」
- 「本人の“生きる意思”を支えたことが、家族にとっても希望になった」
ALSは“家族の病気”でもあります。
だからこそ、心の準備も家族で共有しておくことが、大きな支えになるのです。
5. 後悔しない人生設計のために「今、できること」
ALS家系に生まれたからこそ、「いつかの不安」にとらわれすぎず、**「いまをどう生きるか」**を考えることがとても大切です。
私たち夫婦も、以下のような選択を少しずつ取り入れ始めました。
- 家族の時間を大切にする働き方・暮らし方への見直し
- 医療・介護・保険制度の情報を早めに収集
- 健康的な食生活・睡眠・運動を家族で実践
- 「怖がるより、知って備える」ことを子どもに伝える
ALSは今も「治療が難しい病」とされていますが、遺伝子治療・新薬開発は急速に進んでおり、確実に未来への光は見え始めています。
「もしもの時に備えて、何ができるか」
それを考えることが、家族全体の未来と笑顔を守る第一歩になるはずです。
それから、ALSは本人だけでなく家族や身近な人も大きな悩みや不安を抱える病気です。
遺伝のこと、将来の生活、医療や介護の不安など、一人で抱え込まずに専門の相談先や支援団体に相談することが大切です。
以下に、信頼できる相談窓口をまとめました。
■ALSの相談先・情報サイト一覧(日本国内)
- 【日本ALS協会】
https://alsjapan.org/
→ ALS患者・家族の支援活動、相談窓口あり - 【難病情報センター(厚生労働省)】
難病情報センター – Japan Intractable Diseases Information Center
→ ALSの医療・福祉制度の情報が掲載 - 【地域の難病相談支援センター】
→ 都道府県名+「難病支援センター」で検索可能
例:「大阪 難病相談支援センター」
まとめ:知ることは、未来への希望になる
ALSという名前を聞くだけで、不安や絶望感を抱く人も少なくありません。
でも、正しい知識と小さな行動が、未来の不安を希望に変える力になると、私は信じています。
そして、この記事がALS家系に生まれたあなたやご家族が「後悔しない生き方」を考えるきっかけになれば嬉しいです。
そして、“恐れず、知って、備える”ことが、明日の安心につながるように願っています。
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